世界で活躍するキルギス人ファイターの強さの背景

地理環境による影響

キルギスは国土の約93%が山岳地帯で、国全体の平均標高はおよそ2,750~3,000メートルに達します。
高地の薄い空気の中で育つことで、幼少期から自然と肺活量や持久力を鍛える効果があるとされます。
また、多くの地方では伝統的な遊牧生活が残っており、日々の肉体労働(家畜の世話や水汲み、山道の移動など)そのものが基礎体力の向上に繋がっています。
このような厳しい自然環境と生活環境が、キルギスのファイターにタフな肉体と強い精神力を生み出しているのではないかと考えます。

歴史・文化的背景(遊牧民文化と伝統競技)

キルギスは歴史的に遊牧民の文化を色濃く受け継いだ国であり、古くから戦士の伝統を持っています。
中央アジアの遊牧民文化では格闘技や騎馬競技が重要なものであり、今もなお「ワールド・ノマド・ゲームズ(世界遊牧民競技大会)」が開催されています。
例えばキルギスの国技とも言われるコクボルは、馬に乗ってヤギの胴体を奪い合う伝統競技で、敏捷性・筋力・勇敢さを養う過酷なスポーツです。
キルギス出身のUFCファイター、ウラン・サティバルディエフは「子供の頃からコクボルをプレーし、馬に何度も跳ね飛ばされた。MMAの方がよほど安全だよ」と語るほど。
それほど危険で体力を要する競技で育った経験が、彼らの肉体的・精神的タフネスに直結しているのでしょう。
また、キルギスにはアリシュと呼ばれる伝統的なベルトレスリングもあり、相手のベルトを掴んで投げ技を競うこの格闘技は数百年の歴史を持つ民族スポーツです。
こうした競技が身近に存在していることで、自然と格闘技への関心や理解が深まり、子どもたちがMMAの世界を目指すうえでの下地になっているように思います。

格闘技の育成システム

キルギスでは、伝統的な文化に加えて、ソ連時代からの柔道やサンボといった競技の影響もあって、格闘技の育成システムがしっかり整備されているようです。
ウラン・サティバルディエフは、幼少期から柔道とサンボの訓練を積み、サンボの国内チャンピオンになるなど確かな競技基盤を築いた上でMMAに転向しています。
またキルギスには、「クラートゥー」と呼ばれる競技があり、総合格闘技に似たこの国技は国内の体育大学で学ぶことができます。
UFC王者となったヴァレンティーナ・シェフチェンコも「キルギスでは誰もが武術を学んでおり、男性は皆何らかの武道経験がある」と述べています。
こうした背景から、国内では小さい頃から格闘技指導を受ける環境が整っているのです。

海外メディアからの評価・注目度

近年の活躍により、英語圏をはじめ海外メディアもキルギス出身ファイターに強い注目を寄せています。
実際、UFCで活躍しているシェフチェンコ以降、RIZINでフェザー級王者となったラジャブアリ・シェイドゥラエフや、ONE Championshipで無敗街道を進むアクバル・アブドゥラエフ、さらに日本のパンクラスで元王者を破るなど頭角を現したカリベク・アルジクル ウールといった新世代のスター候補が次々と台頭しています。
あるメディアは「キルギスの経済的困難さゆえにファイター達がハングリー精神を培い、勝利への飢えが強い選手を生んでいる」との分析も報じており、実際、生活のために必死で戦っている選手も多く、だからこそ勝利への執着や精神力が強いのかもしれません。
格闘技の勢力図で見ると、これまでロシアやブラジル、アメリカが強国とされてきた中で、キルギスをはじめ中央アジア勢の存在感が一気に増している印象です。

シェフチェンコ選手の成功が国内に与えた影響

そして忘れてはならないのが、ヴァレンティーナ・シェフチェンコ選手の存在です。
2018年にUFC女子フライ級王者となった彼女は、キルギス人として初の快挙を成し遂げ、国中が歓喜に包まれました。凱旋帰国の際には大統領が出迎え、国家から名誉勲章を授与されるほどだったそうです。
シェフチェンコ自身も「祖国のために戦っている」と何度も語っていて、その影響力は絶大です。彼女に憧れて格闘技を始める若者も多く、国内のMMA人気を押し上げた第一人者と言っても過言ではないと思います。
彼女の快挙は国内の若い世代に大きな夢と刺激を与え、「シェフチェンコに続け」とばかりにMMAを志す男女が増加したとも報じられています。
事実、彼女のタイトル奪取以降、UFCや他団体の試合はキルギス国内で大いに人気を博すようになりました 。
このように、シェフチェンコの成功は国内の格闘技ブームの火付け役となり、政府から一般ファンに至るまでMMAへの関心と誇りを飛躍的に高めました。
その影響で培われた新世代のファイター達が、今まさに世界の舞台で活躍し始めているのです。